大蛇(おろち) (1990)

基本
作品名(英) Orochi
作品名(独) Orochi
作品記号  
作品年 1990
ジャンル オーケストラ/協奏
演奏時間 29分30秒
楽器 yokobue, shakuhachi, shamisen, perc, str-orch, electronic sounds
楽譜・譜面

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曲目解説

<女が男を追い、ついに「大蛇」に変身して男を殺す>という物語り「道成寺伝説」を、私は子供のころ何度も聞かされた記憶がある。「OROCHI」の佐々木幹郎氏の「詩」は、この伝説の新しい解釈ー現代的なヴァリエーションであろう。

この「ヴァリエーション」で印象深いのは、女(大蛇)が最後に炎に包まれた梵鐘に巻きついて男を殺してしまうのは、男に裏切られての復讐、怨念からではなく、女の男に対する深い、悲しい愛がなしたことだ、というコンセプトで、このことは、この物語り全体に新しいイメージを導入しよう。そのコンセプトどうり、佐々木幹郎氏の詩は<愛を表現する>美しい言葉で溢れている。そして、それらの「言葉」は次々と映像的にイメージ変換して私に迫ってきた。私は作曲するにあたってこの変換された「イメージ」を音化、音響化しようと試みた。

この作品で用いた音素材[Ton-Materialien]、音響要素[Klänge-Elemente]は豊富である。西洋音楽の音要素として50名からなる弦楽オーケストラが用いられ、それに、日本の伝統音楽の横笛 ー龍笛[ryūteki](雅楽の笛)、能管[nohkan](能の笛)ー 、尺八[shakuhachi]、太棹[futozao](文楽の三味線[shamisen])、あるいは日本の民俗芸能にルーツをもつ笛、木質打楽器による音楽、道成寺伝説のわらべ歌として伝承してきた「てまり歌」などが各シーンを彩る。そして、さらにこれらの音楽に、最近日本の金属彫刻家によって開発された非常に特異な音色をもつ打楽器 「Cidelo Ihos」 や、電子的に変音された梵鐘、ピアノ音響などを、西洋/東洋の音要素を音色/音響的に仲介(融合[Verschmelzen])する役割[eine Rolle spielen]として混在させた。

私は、これらの音楽、音響[Ton-Klänge]をもって、古くから日本に伝承されてきた「物語り」を一つのヴァリエーションとして<現代の鏡>に投射する内容をもつ「詩」に対応するものとして作曲し、複合的に音響構成し、統合[Integration]しようと意図した。

石井眞木, 1992