失われた響き(ロスト サウンズ) I – ヴァージョンB (1978)

基本
作品名(英) Lost Sounds I – Version B
作品名(独) Lost Sounds I – Version B
作品記号 032 (B)
作品年 1978
ジャンル 室内楽
演奏時間 13分
楽器 vn, pf, perc
楽譜・譜面
リコーディ音楽出版社本社
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曲目解説

この作品はヴァイオリン協奏曲「失われた響き( ロスト サウンズ )Ⅲ」(1978/Op.34)と同じコンセプトで創られた。ヴァイオリン独奏部分はほぼ同じ音形を奏するが、これにピアノを中心に、 それぞれのヴァージョンのソリストが加わる。

タイトルの「失われた響き」とは逆説的な意味から付けられたもので、1950~60年代に世界を席巻した、いわゆる「前衛音楽」でタブー視され、失われてしまった協和音的な<美しい響き>の復権を表している。しかし、この作品では、それが作品内部で慎重になされていて全体の響きとしては、<ほのかな調性感>を醸しだすように創られている。

ヴァイオリン独奏の、限定された極限的高音域を循環する<無限旋律>が永遠の時の流れををつくり、 それに対してより大きな音程跳躍をする旋律群、あるいは二つの相対する音響群が室内楽的な独奏に現れ、この無限旋律と数度にわたり交錯し、重層し、ときにそれを寸断する。いいかえれば、無限、有限の音楽時間、あるいは協和音、不協和音が一つの空間内で拮抗し,新しい音空間を現出させようと意図した作品である。

初演 ヴァージョンA :17.6.1978/東京文化会館/VL.:小林健次/Pf.:一柳慧

ヴァージョンB :27.2.1978/「パンムジークフェスティヴァル3」東京/Vl.:篠崎功子/Pf.:高橋アキ/Perc.:吉原すみれ、山口恭範

ヴァージョンC :21.10.1978/「石井眞木コンサート」パリの秋フェスティヴァル/Vl.:篠崎功子/Pf.:高橋アキ/Perc.:吉原すみれ、山口恭範/Hp.、他

石井眞木

 

「ヴァイオリン」は、周知のことだがクレモナの偉大な製作者たち(アマティ、グヮルネリウス、ストラディヴァリウス一族ほか)によって、400~300年も前に〈完成〉した楽器である。ヴァイオリン演奏の創造的、技術的側面から見ても、ヴィルトゥオーソの代名詞である鬼才パガニーニをだすまでもなく、19世紀には大きな展開をし、「ヴァイオリン音楽」の輝かしき頂点をつくったといえよう。19世紀までにヴァイオリン音楽のあらゆる技法がでつくし、演奏技術も完成したとみれば、20世紀は〈夕暮れ〉、世紀末の現代は〈日没〉にたとえられようか。しかし、わずかに照りはえて残る〈日没〉の夕日の光には、またそれなりの美しさもあろう。

この作品「残照の時」はこのようなヴァイオリン音楽の創造的状況を表しているが、ピアノに断片的に現れる伝統的な「挙の音楽」の典型的音形は、もう一つの〈残映〉をこの作品に投射している。

石井眞木