飛天楽 (1981)
作品名(英) | Hiten-Raku |
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作品名(独) | Hiten-Raku |
作品記号 | 048 |
作品年 | 1981 |
ジャンル | 舞台 |
演奏時間 | 55分 |
楽器 | j-dancer, gagaku-ens, reigaku, shomyo, perc |
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曲目解説
雅楽に大きく触発され「雅楽の為の音楽-紫響」(1970) を書き、それをさらに西洋型大オーケストラと同時空で演奏させる「遭遇Ⅱ番-雅楽とオーケストラ」(1971) を発表してから十年の歳月がながれた、とは、「飛天楽」の初演の際のプログラム・ノートの書き出しである。あれからまた十年が過ぎようとしている。
「飛天楽」は、昭和五十六年(1981) に国立劇場の開場十五周年記念の舞楽法会「如是我聞」で初演されたが、雅楽(舞楽)、伶楽、打物、聲明による、オーケストラ作品にも匹敵する大きな編成の作品である。全体は「地籟之帖」-「飛天之帖」-「天球之帖」の三部分から構成され、雅楽楽器のほかに、健稚=聲明の打楽器群、およびその同族の木質、鉄質の打楽器、あるいは、伶楽では木-磁-鉄-石の楽器など、珍しい打楽器、復元楽器多数が使われていて、独特な音響を形成する。
この作品では、構造、構成原理に大きく「東洋的宇宙観」が反映している。例えば、東寺伝来の「不動明王胎内納入印仏」から示唆をうけた無限旋律、無限律動や、それらが微細な変化の内に、螺旋状の運動によって無限進行するという内容にもそれがあろう。
私は、「昭和」がまさに終わりを告げんとする昭和六十三年九月三十日に国立劇場第二十三回聲明公演で「桃太郎征妖魔(ももたろうおにたいじ)」を発表した。この作品では、古来の日本音楽と「易」との深いかかわりに注目した。古代アジアの普遍的な思想が反映しているといわれる「管弦音義」(涼金著・文治元年/1185) の冒頭にも『夫、管弦は万物の祖なり。天地を糸竹の間に籠し、陰陽を律呂の裏に和す』とあるが、ここにも易が古来の日本音楽に深く浸透していた一つの証左があろう。「桃太郎征妖魔」では、この「陰陽の理」を作品の内部に導入し、音響的にも五行思想を表そうとした。そして、「東洋的宇宙観」を鏡ー現代に反射させるところから、「作品」の全体像としての新しい「調和と秩序」を得ようとしたのである。「飛天楽」はまさに、そのような考え方の、私の作品のさきがけとなったものといえる。
舞楽の舞は、この作品「飛天楽」の "気韻生動" を表し、そのアジア的宇宙観を空間的に象徴しよう。
なお、今回は「飛天楽」から、「飛天之帖」(聲明の附楽として打楽器演奏のみ)と、「天球之帖」が演奏される。
石井眞木, 1992