入破 (1981)

基本
作品名(英) Dyu-Ha
作品名(独) Dyu-Ha
作品記号 046
作品年 1981
ジャンル 室内楽
演奏時間 14分
楽器 j-drums
楽譜・譜面
リコーディ音楽出版社本社
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曲目解説

「入破」(1981/Op.46)とは、<新しい領域>に入ることを意味し、また「雅楽」では一種の<変化の形式>を表している。ここではこの作品をかいた1981年に結成された新生「鼓童」を祝い、新たな飛翔を希って、それまでに書いた「モノクローム」、「モノプリズム」とは異なる<太鼓の世界>を現出させようと意図した。鼓童の前身であった「鬼太鼓座(おんでこざ)」時代にはなかった<新打法/新しいリズム/響き>が多数の太鼓群、割笏(拍子木)、銅鑼によって導きだされる。

初演:1981年9月14日/「パーカッション・フェスティヴァル」WDR・ケルン/鼓童

石井眞木

 

太鼓打法━リズムはさらに細分化され、割笏(かいしゃく/拍子木)、銅鑼の響きが中空を飛翔し、新たな鼓童の音世界をめざす。囁きと強打の交錯。<人>の行為━鼓童の新太鼓打法に,ある<打法の個性━芸>の芽生えが生ずる。しかし、さらに太鼓を極限まで打ちつづけることからのみ、鼓童の新たな音世界の輝きは得られよう。それは<個性>からの脱却を指向し、そこから<大自然の鼓動>が聴こえてこよう。

以上の文は、作曲者から鼓童へ「モノプリズム」、「入破」の演奏を通して<大自然>への二つのアプローチを示唆している。

また、鼓童の太鼓打法におけるエネルギーの噴出は、中国の荘子が「斉物論(せいぶつろん)」でいう<天籟(てんらい)を聴く>という境地に到るかもしれない、との意が込められている。

「荘子はこの世の音を三つに分けた。「人籟(じんらい)」とは、笛を吹いてだすような響き。つまり人が楽器を鳴らす。人や楽器の振舞いによって生ずる音。「地籟(ちらい)」とは、たとえば風が吹き、梢がさやさやと鳴り、音をたてる。あるいは洞窟や朽ち木の幹の穴に風が吹き込みボーボーとうなり、響きあう。これらの人の振舞い、自然の振舞いが生みだす二つの響きに対して、もう一つ「天籟(てんらい)」というものがある。これは人籟、地籟を成り立たせる根源の力。人籟や地籟の区別を超えた、さらに奥深い存在、そういうものを天籟と称した。」

[杉浦康平:「天籟受器」(月間:Agama/No.119/1991・3・4・)より]

いわば、「天籟」とは、大自然の声であり、大自然の鼓動であり、<天籟を聴く境地>とは、太鼓演奏の一つの理想の姿を示しているのであろう。

「モノプリズム」の第Ⅰ部「序」はオーケストラのみの演奏。第Ⅱ部「モノプリズム」では、七奏者が七つの締太鼓、一個の大太鼓、三つの中太鼓(秩父太鼓)でオーケストラと対峙する。後者のタイトルは日本太鼓の単色━モノクローム、オーケストラの色彩を象徴するプリズムの合成語で、それぞれの音楽の特質を表している。太鼓群は、確定的リズム(単純性)から不確定的リズム(複雑性)へ、あるいはその逆方向へ移行しながら、<螺旋状>に進行する。またオーケストラは、この太鼓群の動きに異質な音響的、時間的要素をプリズムのように放射していく。

「入破」とは、<新しい領域>に入ることを意味し、また「雅楽」では一種の<変化の形式>を表している。ここではこの作品をかいた1981年に結成された新生「鼓童」を祝い、新たな飛翔を希って、それまでに書いた「モノクローム」、「モノプリズム」とは異なる<太鼓の世界>を現出させようと意図した。鼓童の前身であった「鬼太鼓座(おんでこざ)」時代にはなかった<新打法/新しいリズム/響き>が多数の太鼓群、割笏(拍子木)、銅鑼によって導きだされている。

石井眞木、1994年。源:CD「鼓童 モノプリズム」(SONY/SRCL-2175)より